Part10-1 居酒屋にて(前編)
もりたが恋愛絡み・男絡みで手痛い思いをした場所を実際に巡りながら、つらい思い出を振り返っていく企画「東京のつらい場所」。飯田橋での最後の街歩きを終えて居酒屋へ。これまでの企画を通じて感じたことを語りあいます。
(付き添い・記事編集:Ryota、2018年12月22日収録)
角度のズレを修正すること
Ryota(以下:R) 企画が終わった今の気分はどうですか。
もりた(以下:M) とりあえずよくわかったのは、私、彼のことがめっちゃ好きだったんだなってこと。そうじゃなかったらここまでうだうだ言わなくない? 5年間くらい言い続けてきたってことは、超好きじゃん。
R 好きだったことを再確認したわけだ。
M 本気で相手と向き合いたいと思ってたから、こんなに傷つくラストを迎えてしまったわけですよ。
R そこまで本気で向き合いたいと思った恋人は彼だけだったの?
M 他の人は正直、向こうに流される形で付き合いはじめたから。
R 能動的にこの人と向き合っていきたい、と思えた初めての恋人だったんだね、飯田橋の彼は。
M だから、「愛されるより愛したい」状態だったんだと思う。
R もりたがこの企画の初回で言ってた、「選んだものだからこそ執着する」っていう話だ。
M そんな話もしたね。
R 自ら選んだ相手だったからこそ、ここまでつらかったんだな。
M これからどうしたらいいんだろうね。…もう恋愛でシーソーゲームしたくないんだよなぁ。
R 安心したい?
M 安心したいというか、駆け引きしたくない。ハラハラしたくない。昔はドキドキするのが楽しいと思ってたし今も思うけど、やっぱりなるべく相手と想いが釣り合っていたいし、そう思ってくれる相手と恋愛したいな。「私が好きなんだから、相手と釣りあえてなくてもいい」っていうのは、卒業しなきゃ。
R でも、実際に想いが釣り合ってる状態になるのってめちゃくちゃ難しいよね。
M 難しい。でも、飯田橋の彼に対しても「私が彼のこと好きなんだから、こっちが我慢しなきゃ」って思って、自分が勝手につらくなってたわけじゃないですか。そういうのは違うなって。
R お互い同じ目標に向かっていきたいねってこと?
M うん、そういう人がいい。
R 飯田橋の彼とはそれができてなかった?
M できてなかったわけじゃないんだけど…。
R 同じ目標を設定してたつもりだったけど、それぞれの認識が違った?
M うーん、認識が違ったというか、角度の問題かな。
R 角度?
M 出発点や方向が同じでも、角度がちょっと違えば、進んでいくうちにどんどん開きが大きくなっていくでしょ。そういうことだったのかなと思って。最初は些細なズレだったのに、時が経つにつれて少しどころじゃなくなっちゃった。
R だとすると、そのズレはお互いに気づいて直していくしかないよね?
M そうだと思う。ズレが生じたら、どこかのタイミングで修正しなきゃいけない。だけど、それが自分で解決しないといけない問題なのか、相手と一緒に解決しないといけない問題なのかはまた別だし、解決方法だっていろいろある。だけど私たちの場合、それぞれが「自分だけで解決すればいい」って思っちゃったんじゃない? 「私がこうすれば解決するでしょ?」って。
R 「私はこう思うんだけど、あなたはどうですか?」っていうやりとりがなかった?
M 要するに、対話してなかったんだよね。お互いが対話しているつもりで、実は全然してなかったんだなっていうのは、この企画の中で気付いた。私は割と「自分でどうにかしちゃおう!」って考えがち。職場でも、誰かにもうちょっと仕事を振ってれば早いところを「一人でやった方が早い!」って、一人でうわーっとやって解決したつもりになってたりするから…。
R 仕事の場合はまだ、「このタスクは全部一人でやった方が早い」ってこともあり得ると思うよ。でも、恋愛関係にある二人の間で生じた問題を、一人だけで解決しようとするのはちょっと変だよね。二人しかいないんだから、二人で解決した方がいい。
M そもそも、飯田橋の彼とは解決したい課題そのものを共有できてなかったと思う。
R お互い、相手が何にどうムカついてるのかがわかってなかった?
M それ以前に、彼は私がムカついてること自体わかってなかったりするわけ。上っ面を舐めてるだけで、お互いわかってるつもりになってた。だからやっぱり、「こういうのは嫌だからこうしたい」ってちゃんとお互いに話さなきゃダメなんだよね。その逆もそうだけど。
一方的なコミュニケーション
R じゃあ、今後はお互いにそういうところを共有できる相手と付き合いたいよね。
M もしくは、私が自分勝手に走っちゃったときに、「それは違うよ」って言ってくれる人がいいな。
R 「お前はこう思ってそう動いてるかもしれないけど、それは勝手だぞ! 一緒に走ろう」って言ってくれる人だよね。今までは、二人三脚をお互い自分一人で走りきろうとしてたわけでしょ。
M 相手がどっちの足を出すか勝手に予測して、結局、別の足を出しちゃって転ぶみたいな感じだった。
R そうやって互いにすれ違って、から回っていったわけだ。
M 「私が彼のこと好きだから、それでいいんだ」って思ってるだけで、ちゃんと相手を慮ってなかったんだろうね。例えば、信玄餅を…。
R …なんで信玄餅が例えなの(笑)。
M いや、今たまたま思い浮かんだのが信玄餅だったの(笑)。例えば「私、信玄餅が好きだからあなたにあげるね、はい10個!」って渡したとする。自分としては、「相手のために何かをしてあげたい」という気持ちから出た行動なんだけど、それってすごく一方的なコミュニケーションじゃん。相手が信玄餅を好きかどうかとか、渡すタイミングとか、考慮しないといけない問題があるのに、そこまで考えてない。それがたとえ、相手のことをちゃんと思ってるつもりの行動であっても、「自分がよければそれでいいんだ」って相手に思われちゃうことはしちゃダメなんじゃないかな。
R よかれと思っての行動だとしても、いきなり「あげる!」はダメだよね。「信玄餅、好き?」とか「信玄餅あるんだけど食べない?」って相手に確かめなきゃ。
M それが物理的なものだったらまだ困らないんですよ。信玄餅なんてもらった側が食べようが食べなかろうが、最悪捨てようが、どうにでもなる。でも、形のない行為とか発言とか、態度っていうのは、そういうものじゃないじゃん。
R 「好き」の一方的な押しつけはやめましょう、ってことね。
M そうそう。恋愛においても、私はそんなふうに相手に迷惑をかけたくない。
R それは、もりたが飯田橋の彼に対して「私が我慢すればいいんでしょ」って思ってたことにも言えるよね。勝手に我慢するっていうのもある意味で、一方的なコミュニケーションだから。
M うん、もし我慢するにしても、ちゃんと自分の感じていることを伝えていればまだよかったかな。
誰もが「飯田橋の彼」になり得る
R 「私はこう思うんだけど」とか「私はこうしたいんだけど、どうかな?」ってお互いに話せてたら、別れた後もここまではしんどくなかったかもね。
M まぁ、恨みつらみは少なかっただろうね。っていうか私、飯田橋の彼以外の過去の恋人に対しては、想いが圧倒的に軽いでしょ。
R ほんとそうだよね。
M 向こうからアプローチしてきた元彼たちにとっての私は、私にとっての飯田橋の彼みたいな存在なんだよね。「俺がこんなに好きでいっぱい尽くして苦しんだのに、なんであいつはもう彼氏がいるだのいい感じの人がいるだの言ってるんだ!? なんでどうして!?」ってなってる。 私が飯田橋の彼のことを追いかけてたように、私も誰かにとっての「飯田橋の彼」なんだと思うよ。だからみんな気をつけような……って言いたい(苦笑)。
R みんな~、気をつけてね!(笑)
M 私はたぶん、自分で自分の道を切り開きたいんだろうね。相手に自分の進む道を委ねたくないから、相手から「好き」って言われると、引いちゃう。自分で確証が持てないことは絶対、「いいな」って思えないから。相手に合わせることはできるけど、でも「本当にいいの?」って疑いはずっと心の中にあって、それが決壊する瞬間が来るから。
R そうやって片方の想いが一方的になっちゃった時点で、飯田橋の彼のような存在になり得てしまう。
M ただ、そうならない方法もあるはず。それを気をつけていこうっていうことなんだけど、一人でそう思っていても相手には伝わらない。
R やっぱり恋愛は二人組でやるんだから、二人で考えようよっていうことになるよね。
M プリキュアよろしく。
R そうそう(笑)。二人のことを一人だけで考えたって仕方ないんだから、「自分はこう思ってるんだけど、どう?」っていう対話を諦めないことが大切だね。
M 私の場合は、勝手に「こんなこと言ったら嫌われるから我慢しよう」って自己完結してたからさ。
R 二人でいることを一人で勝手に諦めちゃいけない。もりただってちゃんと対話を試みていれば、少なくとも飯田橋の彼のことをここまで引きずることはなかったかもしれないよね。もうちょっとちゃんと会話があって、お互いが何を考えているか確認しあって、「じゃあこうしようよ」っていう話がちゃんとできれば…。
M まぁ、難しいことだけど……。でもやっぱり、理想論だけど、お互いがお互いを自分ごととして考えれたらいいよね。そしたら、別れるにしてももっと円満だったかも。5年も6年も引きずることなく、「昔ひどいことがあってさぁ~」とか、笑い話だけで済んだのかもしれない。