東京のつらい場所

トラウマ巡りの旅。

Part8-2 @渋谷(渋谷パルコ~ポムの樹)

もりたが恋愛絡み・男絡みで手痛い思いをした場所を実際に巡りながら、つらい思い出を振り返っていく企画「東京のつらい場所」。“飯田橋の彼”に別れを告げられた最後のデートコースをたどります。

(付き添い・記事編集:Ryota、2018年9月15日収録)

 

観たかった舞台のはずなのに

もりた(以下:M) 最後の日の話はどこまでしたんだっけ。

 

Ryota(以下:R) ポムの樹で「君とは惰性で付き合ってたんだよ」って言われた話しかしてないと思う。その日にどういうルートでどういうデートをして、どんなやり取りがあったのかは聞いてない。

 

M なるほどね。えーっと、あの頃はもう終末感が漂っていてですね…。

 

R 出だしからしんどい(笑)。会う頻度がひと月に1回からふた月に1回とかになってた頃でしょ? もりた的にはもう終わりだなって思ってたの?

 

M 別れたくはなかったけど、2人の間に「終わりかな…」っていうムードは漂ってた。渋谷のパルコに行ったのは演劇を観に行くためだったの。その半年ぐらい前にチケットを取ってて。

 

R そうか、チケットを取った頃はまだ仲が良かったんだな。お互い忙しい中、前もって予定を決めておかないと会えない状況だったから、チケットを取って「この日は絶対に会う日だよね」って決めて、当日までの数ヶ月間でどんどん関係が冷めてしまったわけだ。

 

M そうそう。維新派の「レミング」っていう作品で、2人ともとっても観たかったはずなのに、まぁ最初からお通夜ムードですよ。

 

R 全く盛り上がらず(笑)。

 

M 開場とともに劇場に入って、開演まで30分くらいあるわけじゃないですか。普通ならさ、2人で並んで座ってたら、「楽しみだね」とか喋るでしょ? そんなこともなく、2人ともひたすらフライヤーを読み続けるだけ。

 

R えー、マジで!? 楽しみにしてた舞台なんでしょ?

 

M ちょっとは話してみるんだけど、気まずくて…。

 

R 東急ハンズで楽しいデートをしていた頃もあったのに。

 

M それが終末期の我々ですよ。

 

R 舞台はどうだったの?

 

M 超面白かった。

 

R 舞台が始まれば、彼氏のことは一旦置いといて、観賞に集中するわけでしょ?

 

M そりゃそうよ。

 

R で、舞台が終わるじゃん。会場が明るくなって、隣に彼がいるわけだ。その後はどんな感じになるの?

 

M 舞台がとても良かったからちょっとテンションが上がって、パッと隣見て、彼の顔を見てサッと冷める感じ。

 

R あー、現実に戻った。

 

M 仲睦まじい頃だったら、「すごい! めっちゃよかったね!」ってワーワー言ってたと思うの。一応、「面白かったね」「よかったね」とは話すんだけど、その前のお通夜ムードを引きずってる感じ。「チケット取っといてよかった」とか言われたんだけどね。昔だったら「君と観られてよかった」って言ってくれたのになぁ…って思ったりして。

 

R そういうところが心に引っかかるのか。

 

M だって、観るだけだったらさ、一人でもいいし、別に誰と来てもいいわけじゃん。「あそこのシーンが良くてさー」みたいな話もしてみるけど、そんなに広がるわけでもなし、しぼむわけでもなし。

 

R 観終わった直後だから、ある程度の感動や高揚感はあるんだけど、そこまで深い話をする気にならない?

 

M うーん、深い話をする空気じゃないって感じ。気に障るようなことは言いたくないしね。

 

R あんまり踏み込んだことは言えないよな。

 

M 当たり障りのない会話という言葉がとてもよく似合う感じの状態だったな…。あー、もうパルコがない。

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R 建て替え工事の真っ最中だ。

 

M パルコは展示もよく観に来たんだけどなぁ。こうやって私の思い出の地はひとつずつ無くなっていくんですね…。

 

最後のプレゼント

R ここのパルコで舞台を見て、会話も弾まず、とぼとぼ立ち去って。

 

M その後の予定も元々なかったので、「このまま駅に行って、解散でいいよね」って聞いたら、彼が「いや、ご飯食べてこうよ」。

 

R  気まずいからこのまま解散かと思いきや…。

 

M 「終末感あったのに、ご飯に誘われたということは…これは盛り返したのでは?」と思った。「もしかしたら私たち、まだ大丈夫なのでは? 一時的だったとしても、別れる展開は回避できたのでは?」って。

 

R 彼の中で「もうちょっと付き合っていいかも」という気持ちになったんじゃないかと、希望が見えたんだ。

 

M 「じゃあご飯食べよっか、まだ時間大丈夫だし。何食べる?」「どうしようか、とりあえず歩きながら考えよっか」「そうだね」って言いながら歩いて…ヤバい吐き気してきた(笑)。

 

R 大丈夫かよ(笑)。

 

M 悪しき記憶だからね、あんまり強く思いだすと「うわー頭が!」って発狂して、そのままダッシュで逃げ去ってしまうかも。

 

R それだけはやめてくれ(笑)。あ、ポムの樹ってあそこ?

 

M うわー! ヤバい、来ちゃった!

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R もりたの好きな食品サンプルがあるよ!

 

M 食品サンプルは好きだけどさ、それとこれとは話が別じゃん! うわー、来ちゃった…!

 

R 取り乱してる(笑)。

 

M ぶらぶら歩いているうちに通りがかって、「オムライスにしよっか」って来たのがここです。

 

R よし、メニュー見よう。はい、思い出して。もりたが食べてたやつと、彼氏が食べてたやつ思い出して。

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M あいつはダブルソースだった気がするんだよな。

 

R じゃあ俺はそれを注文する。

 

M 私、何食べたんだっけなー。あー、普通にフライドポテト食べたいなっていう感情にかられてる(笑)。

 

R フライドポテトも食べてもいいけど(笑)、どのオムライス食べたかは思い出して。

 

M そんなに凝ったものは食べなかった気がする。ハヤシソースだった気がするな、私。

 

R それにしてみる?

 

M (店員に)チーズインハヤシソースオムライスと、ハヤシソース&ベーコンクリームソースオムライス。それと、フライドポテトひとつ。

 

R 注文して、待ってる間は何を話すの?

 

M うーん、何か話したかな…。あっ! その日のちょっと前に私の誕生日があったから、一応プレゼントをもらったんだ!

 

R おっ、さっきのお通夜ムードと違って、いい感じじゃん!

 

M 彼に「おめでとうって直接言えてなかったから、これ、誕生日プレゼント」って言われて。

 

R おぉ!

 

M あいつのお下がりの「書を捨てよ町へ出よう」のDVDをもらった。

 

R …ん? お下がり? 新品じゃなくてパッケージ開いたやつ? それ、もりたはどういう心境になるの?

 

M あの人の一番好きな映画のひとつだったし、DVDは欲しかったから、嬉しくはあったけど…「付き合う前に、一緒に観たことあったよなぁ」とは思った。

 

R もう観たやつなんだ(笑)。開封済みで、しかももう一緒に観たDVDが最後のバースデープレゼント。

 

M そうだよ、まぁ嬉しかったけど、今思うと「大切にされてないな」とは思う。だって開封済みっていうかさ、自分の持ち物をあげてるだけじゃん。別にわざわざ買ってほしいとは言わないけど、ないがしろにはされてるよね? ラッピングされてた記憶もない。普通の袋に入ってた気がする。ビニール袋に…。手切れ金代わりだったのかな。もしくはあいつ、私との記憶があるものを手放したかっただけなのでは?

 

R 家を出る前に「あっ…あいつ、誕生日だ」って気づいて、手持ちから喜びそうなものを適当に持ってきた可能性もあるよな。

 

M うわ、涙が出てくるわ…。

 

R 付き合って1週間で指輪を買ってくれた彼氏とは思えないプレゼントだもんな。

 

M 私、今までに指輪をいっぱいもらってきたけど…。いっぱいもらってきたというのもイヤな言い方だけどさ…。

 

R いや、いっぱいもらってきたでしょ。付き合った男全員くれるんだから(笑)。

 

M まぁな。けど、指輪を失くさなかったの、飯田橋の彼にもらったものだけなんだよね。

 

R 他は全部失くしたのか(笑)、そっちの方がイヤな感じ出ちゃうぞ…。

 

M それくらい飯田橋の彼からもらった指輪は大切にしてたってことなんだよ(笑)! お風呂に入る時と食器を洗う時以外はずっと指輪つけてた。

 

R そんなに大切な指輪をくれた彼からの最後のプレゼントが、もう観た開封済みDVDだった…。

 

M 渡された時、「あれ、なんか貸してたっけな?」って思っちゃったくらい、プレゼント感が無かったなぁ。

 

R でもまぁ、一応プレゼントをもらって、他には何を話したの?

 

M 「ゴールデンウィークはどこ行くの?」って聞かれた。「どうせ塾のバイトが入るだろうから、まだ決めてない」って答えたはず。でも大学はお休みだし、遊ぼうと思えば遊べるわけじゃないですか。そういう話も出てこなかった。

 

R 「忙しいなら会えないよね~」でおしまい、という感じか。

 

M 会話が途切れないように、「一応お聞きしますが…」っていうニュアンスだったんじゃないかな。

 

R でもさぁ、関係が冷めているとはいえ、一応プレゼントを渡して、今後の予定の話もしてるわけでしょ。この直後に別れ話になるとも思えないんだけど…?

 

M でしょ? だから私としてはちょっと安心したんだよ。

 

R 話を聞いてる限り、別れるという選択をするほど決定的にダメな状態だとは思えないんだよなぁ。彼も関係を続けようとしている感じはするし。

 

M 「別れよう」って言うかどうか、考えてたのかな。

 

R もりたの感触を探ってた?

 

M もしかして私の回答がとどめをさしたのか…? いや、わかんないなそれは。

 

R まぁ、どう答えたら彼が思いとどまるか、正解がわかんないもんね。