Part6-2 @東京スカイツリー(展望階)
もりたが恋愛絡み・男絡みで手痛い思いをした場所を実際に巡りながら、つらい思い出を振り返っていく企画「東京のつらい場所」。“飯田橋の彼”と別れた後も「10年後に登ろうね」という約束が心に引っかかり、スカイツリーを避けていたもりた。しかし、マッチングアプリで知り合ったお兄さんから「スカイツリーに登ろう」と誘われ、ある決意を固める…。
(付き添い・記事編集:Ryota、2018年5月19日収録)
もりた、仏教に目覚める
Ryota(以下:R) エレベーターで、サクッと展望デッキまで上がってきたよ。おー、めっちゃいい景色!
もりた(以下:M) 曇ってるけど、結構きれいだね。
R さて、お兄さんに「呪いを解きに行こう」って言われて、もりたとしてはどういう心境だったの?
M 「確かに、いつまでも過去に縛られてちゃよくないよな」って思った。ちょうどそいつと気まずくなって疎遠だったころ、苛立ちを落ち着かせるために、いろんな仏教の説法の本を読んでた時期があったんだけど…。
R よっぽど苛立ってたんだな(笑)。
M 結構、真面目に読み込んでたんだよ。説法では「執着を捨てなさい」っていう話がよく出てくるの。人との縁は勝手に結ばれるもので、いい縁だったらどうやってもずっと結ばれ続けるし、悪い縁は放っておいても自然にほどける。だから一度疎遠になったとしても、本当にそれがいい縁だったらどこかでまた勝手に会えるようになっている、って。
R こういう風にまた会えたのだから、もしかしたらいい縁なのではないかと。
M まぁ、それが友達としての縁であっても、結ばれてるんだなと思って、私の中でその説法とそのとき起こってることがひとつにつながったわけ。そう考えれば、飯田橋の彼との縁も、それがいいものであればまた結ばれるんじゃないかと思った。「10年後…」とかわざわざ口実を作らなくても、自然に会えるんじゃないかって。逆に、飯田橋の彼との思い出に縛られて、執着する汚れた気持ちを持っていたら会えるものも会えないんじゃないかと。
R ガッツリ仏教入ってるな(笑)。
M 「呪いを解きに行こうよ」って言われた瞬間にそう思ったの。だから「一緒に行ってくれるんなら…、行きたい」って言って登った。上がるまでは吐き気がするくらい気が重かったんだけど、展望階に着いて、エレベーターのドアがバーンと開いて、一面の夜景が目の前に広がっているのを見た瞬間、「あ、意外と簡単に呪いって解けるんだ」って思ったんですよ。
R おぉ、思ったより大丈夫だったんだ。
M ちょっと泣きそうにはなったんだけど(笑)、風景を見たら「きれいだな、東京って」って素直な感動が湧きあがってきた。登る前は、飯田橋の彼に対して、ちょっと罪悪感を抱くんじゃないかと思ったのね。
R 「約束破っちゃったな」って。
M そう、「別の男の人と来ちゃったなぁ」とか。でも、そんなことは全然思わなくて「うわぁ、きれい。来れてよかった」って普通に感動できた。その時に、「私は自分で自分に呪いをかけていただけなんだ」って気付いて「大丈夫、私、意外とちゃんと生きていける」って思えたんだ。
R なんか、いい話だなぁ。
M と言いつつ…、もう一つ上の展望回廊に行くエレベーターを待ってた時に、斜め前に並んでた人が飯田橋の彼にすごく似てて「えっ!?」ってものすごい動揺しちゃって。
R ははは(笑)、やっぱり引きずってるんだな。
M 「呪いが解けた」と思いつつも、実はどこかで面影を探しちゃってたんじゃないかとは思う。
R じゃあ、その展望回廊にも上がってみようか。
“街行くカップル”の真実を悟る
R 展望回廊、すごい景色だな。床がちょっと斜めになってるんだ。
M そうそう、歩いているうちにちょっとずつ目線が上がっていくようになってるの。夜景がよかったんだよなぁ。高層ビルの航空障害灯がチカチカしててさ。ここ、お兄さんと歩いてる時にエモい気持ちになってしまって、別の意味で泣きそうになったんだよね。
R あー、すごくいい雰囲気だったってこと?
M もちろん、雰囲気がよかったのもあるんだけど…。やっぱり夜景が見える時間帯って、カップルのお客さんが多いわけ。で、「これって傍から見たら私たちも、じゃれ合ってる仲のいいカップルに見えるんだろうな」って思ったのね。それこそ、お兄さんが一眼レフを持ってたから、「お前がカッコつけて一眼レフで写真撮ってるところを私が撮ってやる!」「やめて~! 撮るんならちゃんとカッコよく撮って」とか話してた時に(笑)、ふと隣のカップルを見たら同じようなことを言ってたから、「私たち、周りの人からカップルだって思われてるんだろうな」って。でも、逆に考えると、私が羨ましがってたその隣のカップルも実はカップルじゃなくて、もしかしたら私たちみたいな単なる友達同士なのかもしれないでしょ。そこで、世界の真実に気付きまして。
R 真実?
M 私の周りのカップルに見えている人も、実はカップルじゃない方が大多数なんじゃないかと。
R 周りにいる仲良さそうな男女と、独りでいる自分を比べて落ち込んだり傷つくこともあったけれど、自分とお兄さんがそういう感じで仲良くしてるってことは、世の中の男女もみんながみんな付き合ってるわけじゃないのでは…、ってことか。
M 「お前ら、幸せそうにしやがって!」って勝手にひがんでたけど、彼らももしかしたら私と同じように傷ついているのかもしれないと思った瞬間、ちょっと世界をやさしく思えた。
R すげぇ、悟りの境地だ! 仏教ガッツリ入ってるな(笑)。
M 風景を眺めながら、「あの辺が私の家かな」って話とかするでしょ。海沿いの方を指さしたお兄さんに「あの辺の、光が揺らめいて見えるところが僕の家だよ」って言われて、彼の横顔を見た時に「あっ…、このまま何か始まらないかな」と思ったけど何も始まらなかったね(笑)。
R カップルに見えるところまではいったけど、カップルにはなれなかったよという話か(笑)。
M なれなかったし、ならなかったし。別に今も仲のいい友達だし、相変わらずお互いにそういう風には思ってないけど、スカイツリーにだって意外と孤独な人が集まってるのかもなって。
R こういうところに来るとみんな楽しそうに見えるもんね。でも、もしかしたらもりたのようなケースもあるのではないかと。確かに「ほら、あのあたりが職場で…」とか、会話だけ聞いたらカップルだと思っちゃうもんな。
M そうでしょ? あ、あの辺りとか綺麗だよ。
R ホントだ、雲の切れ間に光が差し込んでて。
M あ、東京タワーも見える!
R うわー、小っちゃいな!
M あっちの方がお台場でしょ。で、向こうに海があるけど、あれが舞浜辺りでディズニーシーがちょっと見えるんだよね~。
R おぉ…、つらい場所探訪から、完全に観光へシフトしてるな(笑)。
M いいじゃない。私だってつらいばっかりじゃ生きていけないんだからね!
R 確かに(笑)。今回、スカイツリーに登るのは2回目だったわけだけど、今の心境はどんな感じ?
M やっぱり来るまではしんどかったけど、登っちゃえば何ともないんだと思う。ところどころ「ウッ…」となるところはあったけど、都庁の展望台の時ほど「死ぬ…」という感じではなかった。
R 話を聞いてると、つらい場所でもあるけど、傷が癒えた場所でもあったという感じだもんね。
M そう、みんなに言いたいもん。「意外と呪いは解けるよ」って。だからといって、解くために頑張れとは絶対言えないけど。
R 「呪いを解きに行くぞ!」って無理して行くのはつらいもんな。百合展のついでに登ることを、その場で決めたのが大きかったよね。
M そうだね、ふとした拍子で行ったのは大きかったと思う。
R そう考えると、行くたびにちゃんとつらい飯田橋ってやっぱりすごいんだな(笑)。
M だってこの前も仕事で飯田橋に行った時に、吐きそうになってTwitterの人たちにめっちゃ励ましてもらったから。
R 飯田橋は強いなぁ(笑)。
M 最強だよ。死んじゃうかと思ったもん。「このままノーリターンしていいですか?」って会社に電話かけそうになったもんね。