Part10-2 居酒屋にて(後編)
もりたが恋愛絡み・男絡みで手痛い思いをした場所を実際に巡りながら、つらい思い出を振り返っていく企画「東京のつらい場所」。居酒屋でのアフタートークも終盤へ突入。約一年かけて過去の恋愛遍歴を辿ってきたこの企画を踏まえつつ、もりたのこれからについても語らいます。いよいよ完結。
(付き添い・記事編集:Ryota、2018年12月22日収録)
メタ視点と自分の気持ち
もりた(以下:M) うーん、私はこれからどうしたらいいんだろうね。もう、本気で人を好きになれないんじゃないかなって思っちゃう。
Ryota(以下:R) そうは言っても、勝手に好きになっちゃうものなんじゃないの。
M だけど、自分のことを疑ってたら、始まるものも始まらない気がしない?
R 自分の気持ちに対してメタな視点から見ちゃうわけだ。「本当に好きなの?」って疑ってしまう。
M そうそう。
R 最近、マキタスポーツさんの『一億総ツッコミ時代』を読んでるところなんだけど、日本人はみんな自分に対してメタになってるから、もっとベタに生きようって書いてあったよ。メタ視点をやめて、もっと夢中になったらいいよって。
M 難しい。仮に好きな人や気になる人ができたとして、何も考えずに突っ込んでいったらいいのかな。
R 突っ込んでいくっていうか…、自分の気持ちをちゃんと伝えればいいんじゃないの?
M 「メタ視点が入ってるから、私は自分の気持ちもよくわからないんです…」って言ったところで相手が困るだけでは?
R うーん。
M 何をもって確信すればいいんだろうね。これが恋なんだって。
R 胸のときめきに素直に従うとか?
M でもその、「あー、好き!」っていうのに従った結果がこれですよ。
R とはいえ、最初はやっぱり「あー、好き!」ってことから始まるんじゃないの。
M 飽きっぽいからさぁ。ときめきだけを頼りに行動しちゃうと、すぐに「やっぱり違ったな」ってなりそうだから、一旦待ったをかけたくなるよね。酒飲みとしては、酔ってる時のテンションっていうのもあるし。
R 「あー、好き!」からとりあえず始めて、様子を見ながらちょっとずつ好きになっていけばいいんじゃない? ゲームでいう“コンボが決まる”みたいな感じで、自分の中で「好き!」のコンボが決まって高得点な相手を見つけるとか(笑)。
M うーん、どうなのかな。流されてきた結果が今なわけで、それが失敗だったっていうのもあるからさ。
R いや、人に流されるんじゃなくて、自分の中の「好き!」とか「ええやん!」っていう感情にもっと流されたらいいのではって話だよ。お前がお前にもっと流されたほうがいいんじゃない?
M なるほど、自分に流されるのか。私って考えすぎなのかな。
R せっかく「好き!」って思ったのに、「本当に?」ってメタに入ると、途端に流れが止まるじゃん。
M 止まる止まる。
R もりたは自分の「好き!」という気持ちをせき止めちゃって、その上、他人からの好意には「これを拒んだらかわいそうだ」とか「断って仲悪くなりたくないから」って思ってしまってる。相手の気持ちに流されっぱなしじゃない?
M この前、会社の人に「誰とでも仲良くできてると思うけど、八方美人すぎるのも良くないんじゃないの」って言われた。それは自分にも思い当たるところがあって、やっぱり圧倒的に他人に嫌われたくないんですよ。
R そりゃできれば、誰とでも仲良くしたいよね。
M 自分に対してナイーブだから、ちょっとしたことで痛手を負うのも怖い。その延長線上から、自分の加減ができる範疇で「傷つく前に傷ついちゃえ!」ってなってしまうこともあるし…。自意識に殺されそうになっちゃうんだよ。
R 単純にいうと「自分にツッコミ入れないようにしましょう」なんだけどね。酔っ払った時は自制したほうがいいけど(笑)、シラフの時くらい、もうちょっと自分の勢いに任せるのがいいんじゃない? ちゃんとした判断ができる状態の上でなら、流れたい方に流れたほうがいい。もりたはちゃんとした判断ができない時にばっかり流されてるから。
M うーん、自分に自信がないからさー。「こっちを選んで大丈夫かなぁ」って心配になっちゃうんだよな。
R 失敗したくないんだ。全勝優勝したい?
M そうそう、負け試合したくない。たまには「してもいいや!」って時もあるけど、そこにまで至らないかな。
R もりたはなんでそんなに自信ないの?
M この前知り合いと、家族の話をしたのね。そしたら「もりたさんの話を聞いていると、お父さんはあなたのことを自分の分身のように思ってる」って言われたの。「だから、お父さんはあなたが実績を残したら自分のこととして自慢して、その一方で、自分が違うと思ったことをあなたがやったら全部否定してくる。自分の人生を生きるなら、お父さんから離れた方がいいよ」って。そう言われて、腹落ちしてしまったんだよね。
R なるほど。
M 父親は「あれはダメ、これはダメ」って言ってくるけど、「なんでダメなの?」って聞いてもそこに理由はないの。「俺がダメだからダメだ」って一方的に言われる。そういう発想をする人と20年以上接してきたから、気にしないようにしていても、どこかで「これでいいのかな」って考えに囚われてしまうんだと思う。
R うーん、それで自問自答に陥っちゃってるのか。もうちょっと自分の感情に素直に動いていいと思うんだけどなぁ。「これでいいのかな」っていうのは、相手との対話の中で調節していけばいいわけだし。
二人で一緒に進める相手と
M でも、怖いんだよ。予測できない方向に向かっちゃったりするのが…。
R そんなの、相手あってのことなんだから、予測できないことのほうが多いでしょ。
M いや、すごい傲慢な言い方するけど、私は大体、「こうすればこうなるだろう」ってハンドリングできるから。
R ほら、やっぱり一人相撲してるじゃん。
M そうだね…。
R 「自分がこうすれば、こうなるだろう」ってさ、言い方は悪いけど、相手のことを安く見積もってるじゃないですか。
M うん……、安く見積もってると思う。
R そのスタンスって、過去の彼氏たちにとってのもりたでもあるし、もりたにとっての飯田橋の彼でもあるよね。
M 確かに。
R 「私がこうすれば相手はこう動くだろう」って見積もってると、予想外の展開になったときに上手くハンドリングできなくて動けなくなっちゃう。それが不安だから、もりたは「一人で運転する自信がない…」って思ってる。でもさ、そもそもの話、それは二人で運転する乗り物なんだよ。
M そもそもね。
R 舵を取れるのは自分の分だけ。相手も相手の舵を持ってて、お互いに「どうしようか」って話しながら進んでいくものじゃないのかな。もりただって、飯田橋の彼に「私はこうしたいよ」って言えば良かったって思ってるわけでしょ。
M うん。
R だから「こっち行ってみませんか?」とか「ここは危ないからやめときましょう」って会話をしながら、二人で進んでいけるような、そういう関係の相手ができればいいよね。自分一人で無理やりハンドル切ったら、隣に乗ってる人は遠心力で外に飛び出しちゃうよ(笑)。一人でハンドリングしようとしないでさ、二人で一緒に進もうって発想をしてみたらどうかなって思うんだけど……。
M おっしゃる通りだよ…。見て、このもりたの顔…。半分涙目。
R いや、なんか分かったような口を聞いてしまって申し訳ないんだけど…(笑)、これまでのもりたの話を聞いててそう思ったの。自信がなくなっちゃうのは、恋愛っていう二人乗りの乗り物を、無理に一人で運転しようとしてるからじゃないかなって。
M そうだね。
R だから今度は二人でハンドルを握って、「こっち行こうね」とか「あっち行こうね」って言い合いながら一緒に乗っていけば、あんまり事故らないんじゃないかな…というのが、「東京のつらい場所」を一緒に巡った僕からの、もりたへのエールです。
M やばい、結局泣かされてしまった。
R 僕の尻餅と共に、これをもりたに捧げます(笑)。
M ちょっとマジで泣いていい…ですか…。
R いいよ、泣け泣け…なんか俺も泣きそうになってきた(笑)。…もりたはいいやつだよ。そうやって、すごく悩んだり、考えたり、ムカついたり、落ち込んだりしてるやつが悪いわけないよ、ダメなわけない。もりたは頑張ろうとしてるよ。ただ、一人で頑張んなくていいから、二人で頑張れる相手を見つけなよ。
M めちゃめちゃ泣いてるんだけど…(笑)。今の話は自分の中で腑に落ちちゃったから…。次に付き合う人とは、一緒に走れるようにしていきたい。今までみたいに悩むこともあると思うけど、ちゃんとその人と向き合って、一緒に考えていきながら、いい結末を迎えたいな。
R そうなっていけるといいね。
M だから、飯田橋の彼の亡霊は消えないけどそれに負けたくないなあって。『多分そいつ、今ごろパフェとか食ってるよ。』ってタイトルの本、あるじゃん。なんか今までは「あいつ、今ごろパフェ食ってるよ」っていうことに対して「わかってはいるけどさぁ…」とうじうじしてたんだよね。これからは、本当にそうなれるかは分かんないけど、あいつがパフェ食ってることに腹立つときもあるかもしれないけど…、私は私で「本当に好きだな」って思える人と一緒に美味しいものを食べたいなって、思う。
R なるほど、一年近くやってきた「東京のつらい場所」は、そういう結論を迎えたかぁ。
M ……私、幸せになれるかなぁ?
R 俺が勝手に「幸せになれる!」と断言はできないけど(笑)、俺は、もりたが幸せになったらいいなと思うよ。「もりたがもりたなりの幸せを得られますように」とは、祈ってる。
M まぁ、未来のことは未来の私しか決めようがないし、どんなことがあるかもわからないじゃん? 今日の帰りに、急に車はねられて死ぬかもしれないし…。
R 急にネガティヴだな(笑)。
M 極端な話だけど、何があるかわかんないじゃん。だから、なるべく後悔しないようにしたいよね。期待しすぎてがっかりしたくない気持ちもあるけど、もう少しポジティブに期待してもいいのかなって、思えるようになりたい。なりたーい(笑)!
R いいね(笑)。将来どうなるかはわかんないけど、今、もりたがそういう風になりたいって思ってることを、ちゃんと記事にして残しておくよ。
M 頼んだ!
R 最後に改めて聞くけど、企画を通して、飯田橋って場所に対しての印象は変わった?
M 相変わらず「嫌だな」とか「行きたくないな」とは思う。だけど、気分が悪くなるような状態までにはなりたくない。つらい場所じゃなくて、苦手な場所くらいにしたい(笑)。
R 否応なしにつらい気持ちになってしまうんじゃなくて、うっすら「嫌だなー」くらいで止められる程度にね。
M そう、「つらい場所ではないよ」って言いたいな。すぐには言えないけど、いつになるかはわかんないけど、言いたい。
R いつか言える日が来るといいね…! では、以上で東京のつらい場所の収録を終わります! もりたさん、一年間お疲れ様でした!
M お疲れ様でした! 乾杯!
Part10-1 居酒屋にて(前編)
もりたが恋愛絡み・男絡みで手痛い思いをした場所を実際に巡りながら、つらい思い出を振り返っていく企画「東京のつらい場所」。飯田橋での最後の街歩きを終えて居酒屋へ。これまでの企画を通じて感じたことを語りあいます。
(付き添い・記事編集:Ryota、2018年12月22日収録)
角度のズレを修正すること
Ryota(以下:R) 企画が終わった今の気分はどうですか。
もりた(以下:M) とりあえずよくわかったのは、私、彼のことがめっちゃ好きだったんだなってこと。そうじゃなかったらここまでうだうだ言わなくない? 5年間くらい言い続けてきたってことは、超好きじゃん。
R 好きだったことを再確認したわけだ。
M 本気で相手と向き合いたいと思ってたから、こんなに傷つくラストを迎えてしまったわけですよ。
R そこまで本気で向き合いたいと思った恋人は彼だけだったの?
M 他の人は正直、向こうに流される形で付き合いはじめたから。
R 能動的にこの人と向き合っていきたい、と思えた初めての恋人だったんだね、飯田橋の彼は。
M だから、「愛されるより愛したい」状態だったんだと思う。
R もりたがこの企画の初回で言ってた、「選んだものだからこそ執着する」っていう話だ。
M そんな話もしたね。
R 自ら選んだ相手だったからこそ、ここまでつらかったんだな。
M これからどうしたらいいんだろうね。…もう恋愛でシーソーゲームしたくないんだよなぁ。
R 安心したい?
M 安心したいというか、駆け引きしたくない。ハラハラしたくない。昔はドキドキするのが楽しいと思ってたし今も思うけど、やっぱりなるべく相手と想いが釣り合っていたいし、そう思ってくれる相手と恋愛したいな。「私が好きなんだから、相手と釣りあえてなくてもいい」っていうのは、卒業しなきゃ。
R でも、実際に想いが釣り合ってる状態になるのってめちゃくちゃ難しいよね。
M 難しい。でも、飯田橋の彼に対しても「私が彼のこと好きなんだから、こっちが我慢しなきゃ」って思って、自分が勝手につらくなってたわけじゃないですか。そういうのは違うなって。
R お互い同じ目標に向かっていきたいねってこと?
M うん、そういう人がいい。
R 飯田橋の彼とはそれができてなかった?
M できてなかったわけじゃないんだけど…。
R 同じ目標を設定してたつもりだったけど、それぞれの認識が違った?
M うーん、認識が違ったというか、角度の問題かな。
R 角度?
M 出発点や方向が同じでも、角度がちょっと違えば、進んでいくうちにどんどん開きが大きくなっていくでしょ。そういうことだったのかなと思って。最初は些細なズレだったのに、時が経つにつれて少しどころじゃなくなっちゃった。
R だとすると、そのズレはお互いに気づいて直していくしかないよね?
M そうだと思う。ズレが生じたら、どこかのタイミングで修正しなきゃいけない。だけど、それが自分で解決しないといけない問題なのか、相手と一緒に解決しないといけない問題なのかはまた別だし、解決方法だっていろいろある。だけど私たちの場合、それぞれが「自分だけで解決すればいい」って思っちゃったんじゃない? 「私がこうすれば解決するでしょ?」って。
R 「私はこう思うんだけど、あなたはどうですか?」っていうやりとりがなかった?
M 要するに、対話してなかったんだよね。お互いが対話しているつもりで、実は全然してなかったんだなっていうのは、この企画の中で気付いた。私は割と「自分でどうにかしちゃおう!」って考えがち。職場でも、誰かにもうちょっと仕事を振ってれば早いところを「一人でやった方が早い!」って、一人でうわーっとやって解決したつもりになってたりするから…。
R 仕事の場合はまだ、「このタスクは全部一人でやった方が早い」ってこともあり得ると思うよ。でも、恋愛関係にある二人の間で生じた問題を、一人だけで解決しようとするのはちょっと変だよね。二人しかいないんだから、二人で解決した方がいい。
M そもそも、飯田橋の彼とは解決したい課題そのものを共有できてなかったと思う。
R お互い、相手が何にどうムカついてるのかがわかってなかった?
M それ以前に、彼は私がムカついてること自体わかってなかったりするわけ。上っ面を舐めてるだけで、お互いわかってるつもりになってた。だからやっぱり、「こういうのは嫌だからこうしたい」ってちゃんとお互いに話さなきゃダメなんだよね。その逆もそうだけど。
一方的なコミュニケーション
R じゃあ、今後はお互いにそういうところを共有できる相手と付き合いたいよね。
M もしくは、私が自分勝手に走っちゃったときに、「それは違うよ」って言ってくれる人がいいな。
R 「お前はこう思ってそう動いてるかもしれないけど、それは勝手だぞ! 一緒に走ろう」って言ってくれる人だよね。今までは、二人三脚をお互い自分一人で走りきろうとしてたわけでしょ。
M 相手がどっちの足を出すか勝手に予測して、結局、別の足を出しちゃって転ぶみたいな感じだった。
R そうやって互いにすれ違って、から回っていったわけだ。
M 「私が彼のこと好きだから、それでいいんだ」って思ってるだけで、ちゃんと相手を慮ってなかったんだろうね。例えば、信玄餅を…。
R …なんで信玄餅が例えなの(笑)。
M いや、今たまたま思い浮かんだのが信玄餅だったの(笑)。例えば「私、信玄餅が好きだからあなたにあげるね、はい10個!」って渡したとする。自分としては、「相手のために何かをしてあげたい」という気持ちから出た行動なんだけど、それってすごく一方的なコミュニケーションじゃん。相手が信玄餅を好きかどうかとか、渡すタイミングとか、考慮しないといけない問題があるのに、そこまで考えてない。それがたとえ、相手のことをちゃんと思ってるつもりの行動であっても、「自分がよければそれでいいんだ」って相手に思われちゃうことはしちゃダメなんじゃないかな。
R よかれと思っての行動だとしても、いきなり「あげる!」はダメだよね。「信玄餅、好き?」とか「信玄餅あるんだけど食べない?」って相手に確かめなきゃ。
M それが物理的なものだったらまだ困らないんですよ。信玄餅なんてもらった側が食べようが食べなかろうが、最悪捨てようが、どうにでもなる。でも、形のない行為とか発言とか、態度っていうのは、そういうものじゃないじゃん。
R 「好き」の一方的な押しつけはやめましょう、ってことね。
M そうそう。恋愛においても、私はそんなふうに相手に迷惑をかけたくない。
R それは、もりたが飯田橋の彼に対して「私が我慢すればいいんでしょ」って思ってたことにも言えるよね。勝手に我慢するっていうのもある意味で、一方的なコミュニケーションだから。
M うん、もし我慢するにしても、ちゃんと自分の感じていることを伝えていればまだよかったかな。
誰もが「飯田橋の彼」になり得る
R 「私はこう思うんだけど」とか「私はこうしたいんだけど、どうかな?」ってお互いに話せてたら、別れた後もここまではしんどくなかったかもね。
M まぁ、恨みつらみは少なかっただろうね。っていうか私、飯田橋の彼以外の過去の恋人に対しては、想いが圧倒的に軽いでしょ。
R ほんとそうだよね。
M 向こうからアプローチしてきた元彼たちにとっての私は、私にとっての飯田橋の彼みたいな存在なんだよね。「俺がこんなに好きでいっぱい尽くして苦しんだのに、なんであいつはもう彼氏がいるだのいい感じの人がいるだの言ってるんだ!? なんでどうして!?」ってなってる。 私が飯田橋の彼のことを追いかけてたように、私も誰かにとっての「飯田橋の彼」なんだと思うよ。だからみんな気をつけような……って言いたい(苦笑)。
R みんな~、気をつけてね!(笑)
M 私はたぶん、自分で自分の道を切り開きたいんだろうね。相手に自分の進む道を委ねたくないから、相手から「好き」って言われると、引いちゃう。自分で確証が持てないことは絶対、「いいな」って思えないから。相手に合わせることはできるけど、でも「本当にいいの?」って疑いはずっと心の中にあって、それが決壊する瞬間が来るから。
R そうやって片方の想いが一方的になっちゃった時点で、飯田橋の彼のような存在になり得てしまう。
M ただ、そうならない方法もあるはず。それを気をつけていこうっていうことなんだけど、一人でそう思っていても相手には伝わらない。
R やっぱり恋愛は二人組でやるんだから、二人で考えようよっていうことになるよね。
M プリキュアよろしく。
R そうそう(笑)。二人のことを一人だけで考えたって仕方ないんだから、「自分はこう思ってるんだけど、どう?」っていう対話を諦めないことが大切だね。
M 私の場合は、勝手に「こんなこと言ったら嫌われるから我慢しよう」って自己完結してたからさ。
R 二人でいることを一人で勝手に諦めちゃいけない。もりただってちゃんと対話を試みていれば、少なくとも飯田橋の彼のことをここまで引きずることはなかったかもしれないよね。もうちょっとちゃんと会話があって、お互いが何を考えているか確認しあって、「じゃあこうしようよ」っていう話がちゃんとできれば…。
M まぁ、難しいことだけど……。でもやっぱり、理想論だけど、お互いがお互いを自分ごととして考えれたらいいよね。そしたら、別れるにしてももっと円満だったかも。5年も6年も引きずることなく、「昔ひどいことがあってさぁ~」とか、笑い話だけで済んだのかもしれない。
Part9-2 @飯田橋(印刷博物館~飯田橋駅)
もりたが恋愛絡み・男絡みで手痛い思いをした場所を実際に巡りながら、つらい思い出を振り返っていく企画「東京のつらい場所」。印刷博物館に立ち寄り飯田橋の彼の家を経由して、飯田橋駅に向かいます。その時、もりたの胸に湧き上がる感情とは…。
(付き添い・記事編集:Ryota、2018年12月22日収録)
印刷博物館から彼の家へ
Ryota(以下:R) さぁ、印刷博物館。初めて来たけど、いい感じのところだね。
もりた(以下:M) そうそう、普通にいいスポットなんだよ。今は「天文学と印刷」展だね。あとブックデザインの展示もやってる。
R めっちゃいいじゃん。館内写真撮影は禁止っぽいから、サッと見て回ろう。
M 常設展がいいんですよ。印刷の始まりから最新技術まで歴史を追っていけるようになってる。印刷する前にまず、何かに絵や文字を書くっていうところから始まったのが、時代が移り変わるうちに、版を作って量産ができるようになっていくわけです。こういうのを見ながら「すごいよねー」って話すのが楽しかった。
R 確かに、結構見ごたえあるね。
M ブックデザイン展もちょうど同じ時期にやってたから、彼と来たんだよなぁ。「また来ようね」って言ったけど、結局2度目はありませんでした。…なんで飯田橋の彼じゃなくてRyota と見てるんだろう…。
R それは仕方ないじゃん(笑)、今日は諦めてよ。
M なんだかなぁ~、腑に落ちないなぁ~。…とまぁ、こういうところで彼とああでもないこうでもないと話して、気が済んだところで「じゃあ帰ろう」って彼のお家へ行くわけですよ。
R それじゃあ、いよいよ飯田橋の彼の家の近くまで行きますか。気分はどうですか。
M つらいに決まってるじゃないですかぁ。つらいしか言えないくらい、つらい。
R そこまで取り乱してないように見えるけど?
M 一周回って心が無になってきたよ…。もうあれこれ考えたくないもん。…あの頃は幸せだったなぁ、メンタルは今よりも病んでたけどね…。ねー。やばい、もう着いちゃうよ。
R どこ?
M 待てよ、心の準備させろよ。うわ…、そこのコンビニめっちゃ使ってた…。
R ははは(笑)。
M 彼の家に行く時は、そこのコンビニでいつも待ち合わせてたんだよ。「必要なものは買っておいたから迎えに来て」って言って。…そして、横断歩道を挟んだ向かいにあるのが、彼の家です。
R このマンション?
M これの4階か5階だった。
R コンビニのどのあたりで待ってたんですか、いつも。
M 普通にお店の中。
R じゃあ、コンビニ入っておく?
M 入んない。
R 入ろう。
M いや、だって、なんにも買うものないじゃん。
R 一応さ、入っとこうよ。
M えー…。
R (店内に入って)久しぶりに来て、どう?
M あんまり変わんないな。
R いつもどの辺にいたの。
M ここで雑誌とか見てた。彼が来て、「待った?」「いや、そんなことないよ」みたいな。
R 合流して、店を出て、ここの横断歩道を渡って、二人でマンションに行って。
M ちょっと、追い込まないでよ。この横断歩道は渡りたくない。
R ここの信号で並んで待ってたわけだ。「今日疲れたねー」とか言って。
M …はい。
R その日のこととか喋ったりして。
M はい、そうですよ。
R 信号が青になって。
M ……。
R 渡って、彼のマンションに行って。
M うん、渡んないけどね。行かないよ。絶対やだ、もう行かない。
R 行こうよ。
M 行かない! だってもうここ来ないもん!!
R 行かないの?
M 嫌なことは嫌だって言っていいんでしょ!? この横断歩道は渡りません!!
R …じゃあやめとくか。彼氏の家の方にさよなら言っておこう。
M …ありがとう、飯田橋の彼よ。もう二度とくることはない。もしくはいっそのこと住む。
R 逆に住むのか(笑)。
彼の家からの帰り道
M この辺も変わったなぁ…。こんな感じだったっけ。彼の家から駅に行く時は、いつもこの道を使ってたんだよ。「次はいつ会えるかな」とかそんな話をして…。あー、嫌だなぁ。
R どうした?
M 楽しかった思い出までつらい思い出になってるのが、嫌だなぁと思って。
R まだちょっと心の中でわだかまってる感じ?
M うん。
R そりゃ簡単に立ち直れないわな。
M 一生立ち直れないんじゃない!?
R うーん、立ち直れないにしても、そのしんどさと上手く距離を保てたらいいよね。
M そうだね…。うわぁ、ここの信号、待つのが長いんだよなぁ。彼の家に行くときは早く青に変わってほしいのに、帰りは全然青になって欲しくないの。ちょっとでも長く一緒にいたいから、そう思っちゃうんだよな。
R どうでしたか、久しぶりの飯田橋は。
M タバコ吸いたいな。
R ふふふ(笑)。
M つらいからタバコ吸いたい。何が「飯田橋を克服しよう!」だって話ですよ。
R ここに来ての結論は、「結果、克服できませんでした」っていう。
M 無理でしょ、できないよ。
R これからも避ける?
M 極力はね。
R そっか。今も結構きつい?
M きつい! きついよ。
R 確かにちょっときつそう。
M まぁ、一番きつかったのは、コンビニから彼の家に向かって横断歩道を渡る再現をさせられそうになった時ですけどね!
R ごめん、いや、さっきのあれはマジでもりたを追い込みに行った(笑)。
M 許さねぇ!「Ryota死ね!」って思ったもん。
R せっかくの企画だしね、心を鬼にしたんですよ。
M いやいや、めっちゃ嬉しそうだったよ! 追い込むの、楽しくなっちゃってたよね?
R まぁね…(笑)。
M ひどいぞ!
R …もう行くことはないんだろうね、あの場所には。
M 行くことはないと信じたい。この高速道路のある光景、よく見てたなぁ。「高速沿いの家だから外干しができない」って彼が言ってて、よく室内乾燥機で服を乾かしてましたね。排ガスで汚れちゃわないようにって。
R さて、飯田橋の駅の方に戻ってきたよ。いつも東口から電車に乗ってたんだっけ。
M そう、東口。改札まで送ってもらってた。
R じゃあ改札の前まで行ってみようか。
M そうだね。ここで、歩道橋を上るんですよ。うわぁ、この景色久しぶりだ。あっち側にまっすぐ行けば彼の家で、こっち側に行けば自分の家でという、分かれ道だよなぁ、ここは。あー、このままここから飛び降りて飯田橋に散りたい!
R 完全に俺が疑われるじゃん(笑)。
M そうだよ、「Ryotaのせいだ」って言って散ってやる!
R やめてくれ(笑)! 駅の方へ歩道橋を降りていって、飯田橋を一周したね。とりあえず改札まで行っておこうか。
M この改札で、「またね。家に着いたら連絡するね」とかやりとりがあって解散する。
R ここの改札混んでるね。
M いつも混んでるんだよ……。じゃあ、退却しますか。
R すぐ引き返すな(笑)。
M もう確認したもん、確かに飯田橋駅でしたって。…で、こっちのセントラルプラザでもよくデートしてたよ。
R 神楽坂から凸版の方に回って、飯田橋周辺をひと回りしてきたね。東京のつらい場所最終回ですけど。
M 最終回かー。
R どう?
M まぁ、克服はできなかったねー。
R 結局変わんなかったか。何か改めて発見はあった?
M うーん、やっぱりあいつが死ぬか私が死ぬかしか、この先の幸せはないのかもしれない…!
R そんなこと書けねぇよ(笑)!
M だってさぁ、こういう外に出てるベンチに座って、二人で並んでアイス食べたんだよ。ほら、イルミネーションが綺麗でしょ。
R あー、本当だ、綺麗。
M もう彼とは会えないけどね。
R 一年かけて、もりたは当時どんなことを感じてたのか、どうして飯田橋の彼とはあんな結果になったのかをできる限り振り返った上で、最終的に「会えないんだなー」っていう、その残された感情にただやられる着地になってしまった…。
M 色々考え抜いて最終的に、「もう会えない」という事実だけが残っただけ…。
R 今回、感情的に一番ヒリヒリしたのはどこ?
M やっぱり、彼の家からの帰り道をなぞってしまったことかな。駅まで行くってことがさ、付き合ってた当時は「今日の楽しい時間はもう終わり」ってことだったし、この企画としても、「今までのうだうだした気持ちに決着をつけなきゃ」って意味でもあるし。
R 企画としても感情としても何かしらの終止符を打たないといけない。
M そのために来てたのに、全然終止符を打てる気がしないよ。だって…だってさぁ…。
R うわっ!(濡れた階段で滑って転倒) いてて…。
M 大丈夫!? 平気!?
R 腰を打った…。
M 綺麗に転んだけど!?
R うわぁ、ケツが痛ぇ…。
M もりたをいじめた天罰だよ…。
R うぅー、マジか…。
M ……ふふっ、…はははは(笑)!
R もりたが飯田橋で笑ってる…(笑)。
M ははは、ざまあみろ(笑)!
R 元気でた(笑)?
M でない(笑)! ただ、私に無理やり横断歩道を渡らせようとした天罰だと思えば、少しは気持ちが晴れたかな。
R でも、もりたがちょっと和んで良かった~、 …にしてもケツ痛ぇっ!
M ははは、マヌケだなぁ。久しぶりにあんなに綺麗に転ぶ人を見たよ(笑)。
R 俺が転んだことでもりたの厄が落ちたのでは?
M 確かに、落としてもらったのかもね(笑)。
R この企画、そんな着地で終わるの(笑)。
M まさかの展開だよ!
R だから今度から飯田橋に来た時は、俺が転んだのを思い出して。そしたらちょっとマシなんじゃない(笑)?
M そうだね、Ryotaが滑ってコケた場所。スッテーンってなってたから、ちょっと印象は塗り変わったかもね(笑)。
R 何はともあれ(笑)、町歩きパートはこれで終了。この後、企画を振り返るアフタートークをやりましょう!
Part9-1 @飯田橋(法政大学~神楽坂方面)
もりたが恋愛絡み・男絡みで手痛い思いをした場所を実際に巡りながら、つらい思い出を振り返っていく企画「東京のつらい場所」。いよいよゴールである飯田橋にやってきました。最初は“飯田橋の彼”の母校である法政大学からスタートします。
(付き添い・記事編集:Ryota、2018年12月22日収録)
彼が居たキャンパスへ
もりた(以下:M) いよいよ最終回!
Ryota(以下:R) 最終目的地である飯田橋を巡ります。飯田橋に来る度に吐き気がするほどしんどくなる、っていう状況を克服するのがこの企画の目的ですからね。とはいえ現地集合にすると、もりたが来ない可能性があるので(笑)、市ヶ谷駅からスタートして飯田橋方面に向かいます。途中で寄りたいところがあるんだよね?
M 飯田橋の彼の母校、法政大学です。私は別の大学だったけど、彼の履修している講義を一緒に聴講したりしたんだよね…。「出席も取らないし、潜りやすいからおいでよ」って言われて。あと、この辺りは普通にお散歩もしたよ。お堀沿いで桜並木もあるから、夜に歩くと雰囲気がいいんですよ。
R ここら辺もすでに思い出の場所なのね。
M そうだよ…、もうすでにウジウジした気持ちになってきた。
R 今回はそのモードに入るの早いなぁ(笑)。
M この川沿いの道はカップルが多いんですよ。晴れてるとベンチに座ってたりして。
R 春になると桜も咲いてるしね。飯田橋の彼とは、ここを歩きながらどういう話をしたんですか?
M 普通の会話だよ。「最近学校忙しいの?」とか、「バイトでこういうことがあってね」とか、「桜が綺麗だね」とか、「久しぶりに会えたからすごく嬉しい」とか…。
R そういう話を2人で仲睦まじくやってたわけだ。…さぁ、来ましたよ、法政大学の前。
M 来ちゃったよー。やっぱり都心のキャンパスはデカいよね。
R 彼は何学部だったの?
M 文学部。小説とかも書きたいって言ってて、たしか文学創作系のゼミにいたんだよね。
R 彼の小説って読んだことあるの?
M ゼミ誌をもらったから読んだけど…、記憶がない。「なるほどねー」とは思った気がするな。彼っぽい文章だなっていう程度の印象だね。
R このキャンパスに潜って、どういう講義を聞いたかは覚えてる?
M 法政大学の歴史を学ぶ、みたいなやつ(笑)。「私、なんでこれを聴講してるんだろう…」って思いながら聞いてた。
R えー(笑)。もうちょっと具体的な、それこそ文学の講義とかにすればよかったのに。
M 出席を取らないとかで、潜りやすい講義だったんだよね。それに、一緒にいられるのが楽しいんだから、授業の内容なんてなんでもよかったんですよ。
R なるほどね。
M でも、最初に法政大に来たのは学園祭の時かな。彼から学園祭に誘われて行ってみたら「仲良い友達なんだ」って女の子を紹介されて、その子と3人で飲みに行ったんだよね。彼が「今の彼女と別れたいと思ってるんだよねー」って話して、女の子が「もう別れちゃいなよー」ってめっちゃ言ってて。まぁ、その子も彼のことが好きだったんだろうね。…で、彼が飯田橋に引っ越してきた時、私より先に彼の部屋に入ったのもそいつなんですよ!
R あー、例の「部屋に入れたのは君が最初じゃなかったんだ」って急にカミングアウトされた件(笑)。
M その子だったわけですよ。まぁ、最終的には私が競り勝ったけどな!
R …っていうかさぁ、その時点で、飯田橋の彼は複数の女子に手をつけてたってことじゃん。
M そう、だからスタートの時点からダメだったんだよね。向こうの女の子からしても「なんなのこの子?」って思ってたんじゃないかな。
何が一番許せなかった?
R 法政大を横切って、着々と飯田橋に向かってますが、コンディションはどうですか?
M ひとことで言うなら、つらい。
R つらみが増えてきてる?
M うーん、今回は最初からマックスだからな。
R ほら、飯田橋駅が目の前だよ。
M げー。こんなだったっけ、飯田橋…。あー、具合悪い。
R 今まで避けてきた飯田橋にやってきたわけですが、とりあえず一回駅に行ってみる?
M とりあえず東口に行かなければ大丈夫…。ゲホゲホ…。
R むせてる(笑)! マジで体調に異常きたしてるじゃん。
M あー、飯田橋、こんなだったね…、いろんな感情が混ざって泣きそうになってきた…。でも5年も経ったから、街も色々と変わったんだろうな。
R 変わった感じする?
M いや、わかんない。いま日高屋の方を見て心の平穏を保っているから。
R もりたの心のオアシスだもんな、日高屋(笑)。さぁ、飯田橋駅ですね。
M でも、西口はそんなに思い出がないからまだ平気かな。
R 次はどこ行くの。
M 印刷博物館に行きます。
R それは、どういう場所?
M えーと、凸版印刷が運営している企業博物館ですね。
R そういうWikipedia的な話じゃなくて(笑)、もりたと飯田橋の彼にとってはどういう場所だったの?
M 「どうやら飯田橋に印刷博物館というのがあるらしい、しかも彼の家から近いぞ!」という流れで、足を運んだ場所です。私も彼も博物館や美術館が好きだったからね。
R 結局行ったのは一回だけ?
M 一回しか行かなかったな。「また行こうね」って約束はしたけど叶わなかった…。でも本当に面白い場所ですよ。
R じゃあ一回行ったきりの印刷博物館に行きますか。
M 神楽坂を通っていこう。この辺りも、特になんの用事もなく散歩してましたね、家が近いから。
R ここら辺は楽しいよね、いろんなお店あって。
M あー、あそこのロイヤルホストも行ったなぁ!
R よく覚えてるね(笑)。
M 見ると思い出しちゃうよねー。
R でも、神楽坂の方に来たらもりたのテンションもちょっと落ち着いた感じだな。
M 神楽坂は日常的に歩いていた場所過ぎて、印象的なエピソードがないからなぁ。でもほら、わけわからないところが好きな二人じゃないですか。だからあえて路地に入ってみたら迷子になり、「全然家帰れねぇ! ここどこ!?」ってなったことはあったね。だから飯田橋よりは落ち着いて歩ける。それにしても、彼は今何やってるのかなー。最近Facebook見てないんですよ。(Facebookを見て)あ、アイコン変わってる!
R ははは(笑)。
M ほら、ノーカラーのシャツ着てる! こういうところが好きだったの!!
R 記憶の扉が開いてるなぁ。
M でも別れてから五年以上経ってるとさ、顔はこういう風にFacebookとかで見ているからわかるけど、声がだんだん思い出せなくなっちゃうんだよね。喋り方はなんとなくこんな感じだったよなーとは思うけど、それ以上は出てこなくなっちゃう。
R 声から最初に忘れるっていうもんね。
M こういうところが好きだったっていう、細かい仕草もあったはずだけど、全然思い出せないな。眼鏡をよく拭いてたっていうのは今思い出した(笑)。
R どんな拭き方とかは覚えてない(笑)?
M 服の端とか拭かずに、ちゃんと専用の布で、とかそれくらい。
R まぁ、普通だね(笑)。口癖とかはなかったの?
M うーん、そういうのももう思い出せないな。でも私の名前を呼ぶときに、頭の方にアクセントを呼ぶ人だったな。…って自分で言いながらダメージを負ってる(笑)。
R じわじわと心が削られてるな(笑)。
M 飯田橋の彼も幸せにやってくれていたらいいなとは思うけどね。その反面、「絶対許さねぇ!」とも思う。
R 彼に対して一番許せないと思っているのは、どういうところなの。
M 色々あるけど…、やっぱり最後に嘘をつかれたことかな。「他に好きな子ができた」って正直に言って別れてくれればスッキリしたのにさ。「今はそういうこと考えられなくて…」って言いながら、すぐ他の女と付き合ってたでしょ? 「友達にまた戻りたい」とか言ったくせに、結局戻らせてくれなかったでしょ。いい終わり方ができないのがつらいのはわかるけどさぁ。ちゃんととどめを刺されなかった恋は、一生死なないんだよ! 殺すときは殺さないとダメなんですよ!
R 別れるにしても、ちゃんと決着をつけて欲しかったわけだ。
M そうそう。どうせ悲しむならちゃんと悲しませて欲しかったし、最後まで誠意を持って本当のことを話してほしかった。もし、本当のことがつらくて言えないんなら、絶対に嘘がバレないようにしてほしかった。
R そのつらさは引き受けなきゃいけないものだもんな。関係だけ終わらせて、自分だけつらさから逃げるのはズルだよね。
M 私との関係はここでは終わるかもしれないけど、それぞれの人生はまだ続くわけだからさぁ。ちゃんと終わらせて欲しかったよね。そこまで考えてくれっていうのも酷な話だとわかってはいるけれど。
R 2人の関係に綺麗な丸を打って欲しかったわけでしょ、句読点の「。」を。
M そう! 何でお前「藤岡弘、」みたいにしたんだよ!って。
R ははは(笑)。
Part8-3 @渋谷(ポムの樹~渋谷駅)
もりたが恋愛絡み・男絡みで手痛い思いをした場所を実際に巡りながら、つらい思い出を振り返っていく企画「東京のつらい場所」。渋谷の「ポムの樹」でオムライスを食べながら、“飯田橋の彼”に別れを告げられた時のことを振り返ります。渋谷編最終回。
(付き添い・記事編集:Ryota、2018年9月15日収録)
もりた、食中に振られる
Ryota(以下:R) どういうタイミングで、別れを切り出されたの?
もりた(以下:M) 彼がオムライスを食べ終わってから。私のはまだ3分の1ぐらい残ってた。
R うわー、それは最低だ(笑)! せめてこっちも食べ終わってからにしてほしいよね。
M あいつの言いたいタイミングで言われましたよ。私が「最近は大学でこういうことがあってね」とか、いつもの調子でペラペラ喋ってたら「あのさ…」って彼に言われて。「何?」「あのさ…、君とは惰性で付き合ってたと思うんだよね」「…え?」「だからさぁ、申し訳ないんだけど、友達に戻りたいなと思って」。いきなりすぎて理解が追いつかない。こっちは今までオムライスに集中してたわけですから。
R 食前食後ではなく、食中に振られたのね(笑)。
M 「他に好きな人ができたとか、そういうのじゃないんだ。俺が今、恋人のこととかちゃんと考えられる状況じゃないから、友達に戻りたい」だってさ。まぁ次の日、ヤツのFacebookのステータスが「交際中」に変わるんですけどねー!
R 面白いけど、その件は後で話そう(笑)。別れを切り出された時のもりたは、どういうリアクションだったの。
M 「そっか…、わかった」って。
R 受け入れたんだ。
M そんなふうに言うってことは、こっちが何を言ってももう無理なんだなと思って。すがったところで惨めになるだけだからね。泣きそうで視界がにじむんですけど、堪えて、「わかった、じゃあ別れよう。今までありがとう。指輪、返すね。あと鍵も返す」。
R その場で返したの?
M そう。指輪もスッと外して、「ありがとう」って言いながら返した。「俺の部屋に荷物が残ってるけどどうする? 取りに来る?」って言われたけど、会ったらまた言いたくないことを言っちゃいそうだから、「あなたの家に置いてある私物は、もう全部捨ててください」って。
R そっか。…オムライス美味しい?
M …美味しい。
R 当時食べたのもこれだった?
M この味だった気がする。美味しいけど…、つらいなぁ。普通さぁ、別れ話をオムライス食べてる途中にします? 帰り道でいいじゃん! …一刻も早く別れたかったのかなぁ。もう、ゴメンとしか言えないですよ。私が悪かった。
R もりたは自分で、どこが悪かったと思ってるの?
M メンヘラなところ。
R ははは(笑)。
M 最初は「お互いやりたいことをやりながら付き合える関係がいいよね」って許していたはずなのに、それを今更、付き合って何年も経ってから「やっぱり嫌だ」って言われるのは、彼からしたら縛られる感じがするでしょ? 自由にやりたい彼に対して両手放しで喜べなくなった時点で、ダメだったんだよ。
R うまく距離を保ちながら付き合っていこうと言ってたのに、もりたがその境界線を越えちゃったわけだ。
M 自由で構わないんだけど、「こんなにないがしろにされるんだったら付き合ってる意味ないな」って思っちゃったんだよね。
決定的なすれ違い
M …あ。
R どうした?
M いま思い出したんだけど、彼が別れたいって思った決め手、もしかしたらあれだったのかな…。
R 何?
M その当時、彼は大学3年になる直前だったんだけど「実は休学しようと思ってる」って言いだしたんだよね。「別に何か目的があるわけじゃないけど、今のまま大学に通っててもあんまり意味ないから、学業を一旦ストップして考えたいんだよね」って。
R 今後の身の振り方を見直したいと。
M 私、「ちょっと待って」って言っちゃったんだよね。ほら、彼って一度社会人をやってから大学に入り直した人でしょ? それで特に目的もなく休学するっていうことに、私はあんまり必要性を感じられなかった。お金もそれなりにかかるわけだしね。「そういう意味の見出せないことに対して、私はあんまり手放しでは賛成できない」って話をした。
R 彼が人生の選択をしようとしているところに、もりたは待ったをかけちゃったんだな。それで「お互い好きなようにやっていこうって言ってたのに…」と、彼が思ったかもしれない。
M 「こいつとは決定的に合わないな」と思われた可能性はあるね。
R その話をしたのもポムの樹?
M そう。店に来る道すがらで「休学したい」って言われて、ポムの樹に着いてから「さっきの話なんだけどさ…、私は賛成できないな」って伝えた。
R それを聞いて「こいつとは合わない」と思った彼は、別れを決断した…。
M うわ、そういう流れだったのか…?
R あくまで可能性だけど、あり得る話だよな。惰性で付き合ってても、一緒にいて居心地がいいならまだよかった。でも、こいつは俺の身の振り方に今後も口出ししてくるかもしれない…、それなら、これ以上一緒にいる意味ないなって考えるのは自然かも。
M その前からサークルの件であれこれ文句も言ってたしね…。えー、じゃあもりたも悪いんじゃん…。
R どっちが悪いっていう話でもないんだよな…。すごく合ってるつもりでいたんだけど、実は決定的に合ってないポイントがあって、それがとうとう露呈しちゃった。
M そうやって我々は別れを告げたのです…。別れちゃったんだなー、悲しいことに。
R 別れちゃったねー、悲しいことにね。
M ずっとさ、「どうしてあんなことになっちゃったんだろう?」と思っていたけど、今日ちょっと絵解きができて、ほんの少しわかった気がした。自分の反省点が見えるのは素晴らしいことだね。でも…、もしもさぁ…、彼の休学に賛成してたら、私たちってまだ付き合ってたのかな。
R うーん、休学してからの彼の行動によるけど、我慢しても我慢しても、どこかのタイミングでもりたは彼の判断に口出ししちゃったんじゃないかな。
M そうだよね…。あそこで別れなかったとしても、遅かれ早かれダメになってたんだろうなとは思う。
R もりたはこの企画の最初からずっと、飯田橋の彼に対して「ちゃんと言いたいけど言えなかった」「はっきり怒れなかった」って悔やんでたじゃん? でも逆にいえば、彼はうるさく言わないもりただからこそ付き合ってたんじゃないかな。そして、もりたが自分の気持ちをちゃんと伝えられなかったのは、言えば言うほど、彼の気持ちが離れていくということがわかってたから…?
M …うん、たぶんそういう感じだったんだと思う。
R いろんなことを言えないままで別れたから、今のもりたとしてはスッキリしてないんだけど、そうしないと彼と一緒にいれなかったんだよね、きっと。
M やっぱり、彼が「さっぱりしてる君が好き」って言ってくれた、そういう私でいたかったんだよ。
R 自分の気持ちをはっきりぶつけてたら、飯田橋の彼とはもっと早く別れてたのかな。
M そうかもしれないし、逆にぶつかり合ったことでお互いのことがもっと理解できたかもしれない。もしもの話をしてもよくないと思うから、そういうことは考えないようにしてるけどね。最後くらいはガツンと言ってやればよかったとも思うけど、その反面、彼が好きって言ってくれてた私のままで別れたかったんだよなぁ。
R その結果、物分かりよく別れを受け入れたと。
M そう。だってもう、二度と会えないかもしれないんだよ。その最後の記憶が「嫌な女だった」っていうのはつらい。どうせ記憶に残るなら、いい記憶でありたいじゃん。その結果、自分で自分に傷を作ったりするんだけどね。悲しいな。どっちが悪いとかじゃないから。
R うん、2人とも譲れない部分が合わなかっただけで、どっちが悪者って話じゃない。どっちも悪くないからこそ、引きずってしまうのかもな。
M 彼には幸せでいて欲しいけどね…。詩人の最果タヒさんが「わたしをすきなひとが、わたしに関係のないところで、わたしのことをすきなまんまで、わたし以外のだれかにしあわせにしてもらえたらいいのに。わたしのことをすきなまんまで」っていう詩を書いてるんだけど、そういう心境。…さて、オムライスも食べ終わったし、色めき立つセンター街を抜けて帰りますか。
最後のデートの終わり
R 帰り道はどうだったの?
M 「今までいろいろありがとね」と言った気もするけど、あんまり記憶がない。「気まずいな…」とは思ってたかな。気まずい。どうしたらいいかわからない。でも、もう終わりだってことも、ここで別れてしまったら最後なんだろうなってこともわかってるわけです。
R このまま、会うことも無くなるんだろうな、と。
M そうそう。「部屋に置いてる荷物は捨てていい」って言っちゃったから、次に会うための口実もない。思い出話はしたと思うけど淡々とした感じだったな。もう手をつなぐわけでもなく、何をするわけでもなく。最後くらいは、ちゃんとあんまり迷惑かけないように過ごしたかったから。
R いい思い出で終わりたかったんだもんね。
M 「少しでもいい思い出のままで別れて、最初の頃のようにとはいかなくても、ちゃんと友達に戻りたいな」って思ってた。
R でも友達には戻れなかった。
M だって、連絡しても返してくれないし。
R で、別れた翌日、彼のFacebookのステータスが「交際中」になってたんでしょ?
M まぁ。それは何年か後に知ったんですけどね…。それ聞いて「いやいや、お前やっぱり他に女がいたんやないかーい!」って心の中で盛大につっこんだ(笑)。「別れた次の日から『交際中』になるってことは、二股やないかーい!」って。
R まぁ、確実に付き合ってる時期は被ってるよな。
M しかも「いつから交際してるの?」って聞いてるコメントに、彼が「実は結構前からですよ」って返してて、「はーっ!? なにが『他に好きな人ができたとか、そういうのじゃない』だよ! なにが『俺が今、恋人のこととかちゃんと考えられる状況じゃない』だよ! 私と付き合ってた時はステータス『独身』にしてたやんけ!」とは思った。
R 後ほどそんなにブチギレするとは知る由も無く(笑)、もりたは「友達のままでいたいな」と思いながら、渋谷駅に向かったわけだ。
M 彼は地下鉄で、私は京王線で帰るから、ハチ公のところで「もういいよ、ここで」って言ったの。でも彼が「改札まで送らせてよ、最後だしさ」って言うから、上りのエスカレーターに乗って、彼の後ろに立って「もうこの背中を見ることもないんだろうなー」とか考えてたら、京王線の改札にすんなり到着しちゃって。
R 別れ間際、最後にどんな話をしたか覚えてる?
M 「今まで本当に楽しかったし、友達に戻れるなら戻りたいし…。だからさぁ…、最後にわがまま言っていい? 抱きしめて欲しい」。そう言って、ハグしてもらった。「もう大丈夫。ありがとう。じゃあね」って言って、改札の前で別れたんだけど、そのあと満員電車でつり革につかまってたら、堪えてた涙がポロポロ出てきて、目の前の席に座ってたおじさんがビビったのか、席を譲ってくれて…。そのままワンワン泣き続けて、途中でビール買って、飲みながらまたワンワン泣いて、家に帰ったというのが、最後のデートの結末…。
R …えーっと、ハグしようか(笑)?
M 嫌だ! ハグするならイケメンがいい!!!
R わかった、やめとこう(笑)! さて今回で全部聞ききったから、次回はいよいよ最終章だよ。飯田橋行けそう?
M いや、もちろん行きますよ。行きますけど、体調不良のため当日ドタキャンする可能性はある!
R ダメだよ(笑)、その時はすぐリスケするからな!
Part8-2 @渋谷(渋谷パルコ~ポムの樹)
もりたが恋愛絡み・男絡みで手痛い思いをした場所を実際に巡りながら、つらい思い出を振り返っていく企画「東京のつらい場所」。“飯田橋の彼”に別れを告げられた最後のデートコースをたどります。
(付き添い・記事編集:Ryota、2018年9月15日収録)
観たかった舞台のはずなのに
もりた(以下:M) 最後の日の話はどこまでしたんだっけ。
Ryota(以下:R) ポムの樹で「君とは惰性で付き合ってたんだよ」って言われた話しかしてないと思う。その日にどういうルートでどういうデートをして、どんなやり取りがあったのかは聞いてない。
M なるほどね。えーっと、あの頃はもう終末感が漂っていてですね…。
R 出だしからしんどい(笑)。会う頻度がひと月に1回からふた月に1回とかになってた頃でしょ? もりた的にはもう終わりだなって思ってたの?
M 別れたくはなかったけど、2人の間に「終わりかな…」っていうムードは漂ってた。渋谷のパルコに行ったのは演劇を観に行くためだったの。その半年ぐらい前にチケットを取ってて。
R そうか、チケットを取った頃はまだ仲が良かったんだな。お互い忙しい中、前もって予定を決めておかないと会えない状況だったから、チケットを取って「この日は絶対に会う日だよね」って決めて、当日までの数ヶ月間でどんどん関係が冷めてしまったわけだ。
M そうそう。維新派の「レミング」っていう作品で、2人ともとっても観たかったはずなのに、まぁ最初からお通夜ムードですよ。
R 全く盛り上がらず(笑)。
M 開場とともに劇場に入って、開演まで30分くらいあるわけじゃないですか。普通ならさ、2人で並んで座ってたら、「楽しみだね」とか喋るでしょ? そんなこともなく、2人ともひたすらフライヤーを読み続けるだけ。
R えー、マジで!? 楽しみにしてた舞台なんでしょ?
M ちょっとは話してみるんだけど、気まずくて…。
R 東急ハンズで楽しいデートをしていた頃もあったのに。
M それが終末期の我々ですよ。
R 舞台はどうだったの?
M 超面白かった。
R 舞台が始まれば、彼氏のことは一旦置いといて、観賞に集中するわけでしょ?
M そりゃそうよ。
R で、舞台が終わるじゃん。会場が明るくなって、隣に彼がいるわけだ。その後はどんな感じになるの?
M 舞台がとても良かったからちょっとテンションが上がって、パッと隣見て、彼の顔を見てサッと冷める感じ。
R あー、現実に戻った。
M 仲睦まじい頃だったら、「すごい! めっちゃよかったね!」ってワーワー言ってたと思うの。一応、「面白かったね」「よかったね」とは話すんだけど、その前のお通夜ムードを引きずってる感じ。「チケット取っといてよかった」とか言われたんだけどね。昔だったら「君と観られてよかった」って言ってくれたのになぁ…って思ったりして。
R そういうところが心に引っかかるのか。
M だって、観るだけだったらさ、一人でもいいし、別に誰と来てもいいわけじゃん。「あそこのシーンが良くてさー」みたいな話もしてみるけど、そんなに広がるわけでもなし、しぼむわけでもなし。
R 観終わった直後だから、ある程度の感動や高揚感はあるんだけど、そこまで深い話をする気にならない?
M うーん、深い話をする空気じゃないって感じ。気に障るようなことは言いたくないしね。
R あんまり踏み込んだことは言えないよな。
M 当たり障りのない会話という言葉がとてもよく似合う感じの状態だったな…。あー、もうパルコがない。
R 建て替え工事の真っ最中だ。
M パルコは展示もよく観に来たんだけどなぁ。こうやって私の思い出の地はひとつずつ無くなっていくんですね…。
最後のプレゼント
R ここのパルコで舞台を見て、会話も弾まず、とぼとぼ立ち去って。
M その後の予定も元々なかったので、「このまま駅に行って、解散でいいよね」って聞いたら、彼が「いや、ご飯食べてこうよ」。
R 気まずいからこのまま解散かと思いきや…。
M 「終末感あったのに、ご飯に誘われたということは…これは盛り返したのでは?」と思った。「もしかしたら私たち、まだ大丈夫なのでは? 一時的だったとしても、別れる展開は回避できたのでは?」って。
R 彼の中で「もうちょっと付き合っていいかも」という気持ちになったんじゃないかと、希望が見えたんだ。
M 「じゃあご飯食べよっか、まだ時間大丈夫だし。何食べる?」「どうしようか、とりあえず歩きながら考えよっか」「そうだね」って言いながら歩いて…ヤバい吐き気してきた(笑)。
R 大丈夫かよ(笑)。
M 悪しき記憶だからね、あんまり強く思いだすと「うわー頭が!」って発狂して、そのままダッシュで逃げ去ってしまうかも。
R それだけはやめてくれ(笑)。あ、ポムの樹ってあそこ?
M うわー! ヤバい、来ちゃった!
R もりたの好きな食品サンプルがあるよ!
M 食品サンプルは好きだけどさ、それとこれとは話が別じゃん! うわー、来ちゃった…!
R 取り乱してる(笑)。
M ぶらぶら歩いているうちに通りがかって、「オムライスにしよっか」って来たのがここです。
R よし、メニュー見よう。はい、思い出して。もりたが食べてたやつと、彼氏が食べてたやつ思い出して。
M あいつはダブルソースだった気がするんだよな。
R じゃあ俺はそれを注文する。
M 私、何食べたんだっけなー。あー、普通にフライドポテト食べたいなっていう感情にかられてる(笑)。
R フライドポテトも食べてもいいけど(笑)、どのオムライス食べたかは思い出して。
M そんなに凝ったものは食べなかった気がする。ハヤシソースだった気がするな、私。
R それにしてみる?
M (店員に)チーズインハヤシソースオムライスと、ハヤシソース&ベーコンクリームソースオムライス。それと、フライドポテトひとつ。
R 注文して、待ってる間は何を話すの?
M うーん、何か話したかな…。あっ! その日のちょっと前に私の誕生日があったから、一応プレゼントをもらったんだ!
R おっ、さっきのお通夜ムードと違って、いい感じじゃん!
M 彼に「おめでとうって直接言えてなかったから、これ、誕生日プレゼント」って言われて。
R おぉ!
M あいつのお下がりの「書を捨てよ町へ出よう」のDVDをもらった。
R …ん? お下がり? 新品じゃなくてパッケージ開いたやつ? それ、もりたはどういう心境になるの?
M あの人の一番好きな映画のひとつだったし、DVDは欲しかったから、嬉しくはあったけど…「付き合う前に、一緒に観たことあったよなぁ」とは思った。
R もう観たやつなんだ(笑)。開封済みで、しかももう一緒に観たDVDが最後のバースデープレゼント。
M そうだよ、まぁ嬉しかったけど、今思うと「大切にされてないな」とは思う。だって開封済みっていうかさ、自分の持ち物をあげてるだけじゃん。別にわざわざ買ってほしいとは言わないけど、ないがしろにはされてるよね? ラッピングされてた記憶もない。普通の袋に入ってた気がする。ビニール袋に…。手切れ金代わりだったのかな。もしくはあいつ、私との記憶があるものを手放したかっただけなのでは?
R 家を出る前に「あっ…あいつ、誕生日だ」って気づいて、手持ちから喜びそうなものを適当に持ってきた可能性もあるよな。
M うわ、涙が出てくるわ…。
R 付き合って1週間で指輪を買ってくれた彼氏とは思えないプレゼントだもんな。
M 私、今までに指輪をいっぱいもらってきたけど…。いっぱいもらってきたというのもイヤな言い方だけどさ…。
R いや、いっぱいもらってきたでしょ。付き合った男全員くれるんだから(笑)。
M まぁな。けど、指輪を失くさなかったの、飯田橋の彼にもらったものだけなんだよね。
R 他は全部失くしたのか(笑)、そっちの方がイヤな感じ出ちゃうぞ…。
M それくらい飯田橋の彼からもらった指輪は大切にしてたってことなんだよ(笑)! お風呂に入る時と食器を洗う時以外はずっと指輪つけてた。
R そんなに大切な指輪をくれた彼からの最後のプレゼントが、もう観た開封済みDVDだった…。
M 渡された時、「あれ、なんか貸してたっけな?」って思っちゃったくらい、プレゼント感が無かったなぁ。
R でもまぁ、一応プレゼントをもらって、他には何を話したの?
M 「ゴールデンウィークはどこ行くの?」って聞かれた。「どうせ塾のバイトが入るだろうから、まだ決めてない」って答えたはず。でも大学はお休みだし、遊ぼうと思えば遊べるわけじゃないですか。そういう話も出てこなかった。
R 「忙しいなら会えないよね~」でおしまい、という感じか。
M 会話が途切れないように、「一応お聞きしますが…」っていうニュアンスだったんじゃないかな。
R でもさぁ、関係が冷めているとはいえ、一応プレゼントを渡して、今後の予定の話もしてるわけでしょ。この直後に別れ話になるとも思えないんだけど…?
M でしょ? だから私としてはちょっと安心したんだよ。
R 話を聞いてる限り、別れるという選択をするほど決定的にダメな状態だとは思えないんだよなぁ。彼も関係を続けようとしている感じはするし。
M 「別れよう」って言うかどうか、考えてたのかな。
R もりたの感触を探ってた?
M もしかして私の回答がとどめをさしたのか…? いや、わかんないなそれは。
R まぁ、どう答えたら彼が思いとどまるか、正解がわかんないもんね。
Part8-1 @渋谷(東急ハンズ)
もりたが恋愛絡み・男絡みで手痛い思いをした場所を実際に巡りながら、つらい思い出を振り返っていく企画「東京のつらい場所」。今回の渋谷編では、飯田橋の彼とのデートでよく来ていたという東急ハンズを巡った後、彼から別れを告げられた場所へと向かいます。
(付き添い・記事編集:Ryota、2018年9月15日収録)
東急ハンズは激アツデートスポット
もりた(以下:M) さぁ、今回は渋谷です。渋谷は会社のセミナーとかで今でもたまに来る場所なんですが、そういうときはヒカリエ側にしか用事がなくて。
Ryota(以下:R) トラウマチックな場所はセンター街方面にあるわけだ。
M そうそう、当時はまだまだ若かったんで、センター街とか行っちゃうわけですよ。さぁ、えっさほっさとトラウマに向かっていきましょう。
R ははは(笑)。まずは東急ハンズに行くんだっけ。
M そうそう、激アツのデートスポットだったからね。無印良品もそうだけど、東急ハンズって「とりあえず行こう」って言って、まんべんなく回っていくのが楽しいスポットなんだよ。ほら、2人のうち片方だけが詳しいジャンルの場所だと、知識をひけらかしちゃって相手をイラっとさせてしまう、みたいな事態が起こり得るじゃないですか。東急ハンズは2人とも詳しくないものがたくさんあるから、お互い同じテンションで「これ何!?」って盛り上がれるんだよね。
R なるほど、あえて知らないものを見にいくわけだ。2人で木材売り場によく行ってたんでしょ?
M 上の階から順番に回っていくんだけど、その中でも滞在時間が一番長いのが木材売り場。使い道がわからない木材を見ながら「こういう風に使うんじゃない?」って盛り上がるのが楽しいわけです。
ハンズに突入!
R 東急ハンズに到着しましたよ。とりあえず上の階から見ていこうか。
M ううっ、ちょっと動悸がしてきた…。
R 大丈夫か(笑)。ここのハンズ、ほとんど来たことないからもりたに着いていくよ。
M マジで渋谷のハンズは迷路なんだよ。もうね、ここに関しては落ち着いてほしい。
R 落ち着いてほしいって何?
M まずフロアの案内板を見てほしいんですけど。
R あー、めちゃくちゃ複雑だ。
M 行きたい場所があったとしても、たどり着くまでにものすごい時間がかかるわけですよ。
R 果たして普通に木材コーナーにたどり着けるのか…。さて、一番上のフロアに着いたよ。
M ここ、どこだ…?
R もうすでに迷子フラグが(笑)。
M 最近は渋谷より池袋のハンズに行くことが多かったから…。あーっ、「人体模型、家に欲しいよね」って2人で話した! 「コートかけたいよね」って。
R 人体模型の肩に羽織らせる感じね。
M そう、あと透明の人体模型とか飾りたいとか、フラスコ欲しいとか。
R なんでそんなのが欲しいの(笑)?
M 2人とも中二病を患ってたから(笑)、こういうのいいよねって話してたんだ~。
R こっちはクラフトのコーナーだって。
M あー、裁ちバサミ、欲しいよね。
R え、なんで?
M 未練を裁ってくれるハサミが欲しい…。
R (笑)。
M クラフトコーナーはそんなに盛り上がらないんですよねー、私が手芸できちゃうタイプの人だから。
R もりた、手芸が得意なの?
M できるよ! なにしろ、もりた家の家訓は「自分で作れるものはなんでも作ろう」だから。ほら、もりた、消しゴムはんこが特技じゃん?
R 初耳だよ! そんなナンシー関的な趣味があるの(笑)?
M 嘘でしょ、知らないのー? もりたの消しゴムは有名ですよ。
R どこで有名なんだよ(笑)。
M 大学の友達はみんな知ってるよー?
R じゃあ俺が知ってるはずないじゃん(笑)。
M だって私、大学の学祭、消しゴムはんこで10万円を売り上げた女やで。
R すげぇ!
M 要らないもりたの知識がまた一つ増えたね。
R 今回、全然つらい場所感がないけど大丈夫かな(笑)?
M まだまだ序の口だからね。あ、こういうミニチュアとか好きなの。小学生の自由工作でミニチュアハウスを作ってたくらいだからね。うわー、あのタバコ屋ほしい!
R 確かにめっちゃよくできてるな!
M タバコのパッケージ、「HOPE」じゃなくて「HOLE」になってる! 「わかば」じゃなくて「わかさ」になってたりとか、うまく作ってるなぁ! ほしい!
R 目的が変わってきたな(笑)。
M まぁ、普通に今でも好きな場所だからね、「いいな!」って思うものはたくさんあるんですよねー。
お互いの価値観を確かめる場所
R ステーショナリーコーナーにも行く?
M ステーショナリーも、これまた盛り上がるんですよ。あっ、ちょうど手帳シーズンだ。手帳は何がいいかで一回彼と揉めたなぁ。
R なんで揉めるの?
M お互いに推しの手帳があるから。その当時、私は割とコンパクト派だったんですよ。鞄にスッと入れられるような手帳が好きだったの。なんなら自分で足せるから、リフィルでもいいやって感じ。やつは字が汚いから大きめの手帳が推しで、A5サイズくらいのものを使ってた。だからお互いに「リフィルはよくない! 真ん中にリングが来るから使いづらいでしょ」「リフィルを一旦外して、書いてからまたつければいいだけやん! それを言うならA5サイズの手帳なんて、持ち運びにくいだろ!」とか、そういう話をひたすらしてた。
R ある意味、お互いの価値観を確かめる場にもなっていたわけだ。
M あとは、こういう絵の具を見て「どの色が好きかなぁ」とか話したね。やつはブリリアントとかセルリアンとか、ブルー系が好きだった。紙もね、カードサイズの商品を見ながら、自分の名刺を作るならどの紙がいいかなとか、そういう話をして…、楽しかったなぁ、あの頃。なんか心にじわっとダメージ負った(笑)。
R ははは(笑)、めちゃくちゃ楽しかったのは伝わってきたよ。
M お次はボールペンコーナー! ボールペンも、どれがいいか論争が勃発しますよね。
R もりたは何派?
M 私はサラサ。インクがドバドバ出るのが好きだから。
R わかる! ゲルインク系は俺も好き。
M でもやつはジェットストリーム派なの。「サラサがいいのもわかるけど、これだけは譲れねぇ」って言ってた。こうやって色々話せるんだから、いいデートスポットだと思わない?
R 思うよ。あと、無印良品の時より、もりたがワナワナしてない。
M 無印良品はあいつの生活の中心にあるブランドだったから記憶に強く紐付いてるけど、ハンズはそうじゃないからそんなにワナワナしない。と言いつつも、やっぱり心はジクジクと痛むねぇ。
R 次はどっちに行く?
M インテリアコーナーだな。時計のところだけで無限に居られる。「どの時計が欲しい?」って話したなぁ。
R もりた的にはどの時計がいいの。
M うーん、悩ましいところだな。ぱっと見はこのセイコーのやつがいいなと思ったんだけど…。ガラスがある時計は反射で映りこむのが嫌なんだよね。
R 俺はね、秒針がスムーズに回るやつが好きじゃないんですよ。
M えー、スムーズに回る方がいいじゃん!
R 俺はカチカチ動くタイプの方が好き。スムーズに秒針が回るタイプは拒まれてる感じがするというか(笑)、可愛げがないと思っちゃう。
M 時計だとデジタルかアナログかも迷うよね。「目覚ましにするなら見やすいからデジタルがいいよね」とか。あっ、砂時計も好きだったな。あいつの家にも3分計と5分計があったわ…。次はアニバーサリーコーナー。バースデーカードとか見ながら、「どういうのなら喜ぶかなー」って考えちゃうんだよなー。…あれ、今日って何日?
R 9月15日。
M ここで重要なお知らせ。明日、彼の誕生日です。
R おぉ! なんか買ってく(笑)?
M いや、送れないから! …あーあ、彼は何してるんだろうなぁ。
R ははは、切なさがぶり返している(笑)。
M だって明日誕生日だよ? 誕生日に指輪買ったんだけどさ、違う、誕生日に付き合ったのか? 違う、その一週間前だよな、うん?
R 混乱するなよ(笑)。彼は明日で何歳になるんですか。
M えーっと、32歳です。ねぇ、26歳と32歳ならやり直せるんじゃね? ねぇねぇ、ダメかな!? もりたも大人になったよ? ねぇねぇ!
R まぁ…、もしかしたら可能性はあるかもしれない。
M いや、無いけどな。分かってるって、そんなことは。
R 可能性はあるかもしれない。
M …うん、調子乗ってごめん。
R 可能性はあるかもしれない。
M あの…、真顔やめて…。
R 可能性は、あるかもしれない。
M ごめんって! もう謝ってるじゃん! 許してよ(笑)!
R ははは(笑)、ごめんごめん、なんか急に調子乗り出したから面白くなっちゃって。でも、人生何があるかわからないから、もしかしたらそういうこともあり得るかもとは本当に思うよ。
M あったら良いけどねぇ。
木材コーナーに到着
R おっ、いよいよ木材売り場ですよ。
M 何に使うかよくわかんないこの感じがいいんだよ、木の匂いもいいよね。
R 確かにいい匂い! そして「お買い得です」って書いてあっても全然ピンとこないのがいいわけでしょ?
M そうそう。木材コーナーって、他のお客さんは明確な目的を持ってここへ来てるわけですよ。そんな中で、「何これ!?」とか「何に使うのが一番賢いかな」とか話すのが楽しいの。
R なるほどね。…これは何に使うんだろう?
M ほら、わかんないじゃん。「これとあれの差は何なんだろう」とか、そんな話で盛り上がる。
R こういうのを見ながらワーキャーしてたんだ。
M そうそう…。
R なんか露骨にテンション落ちてきてない(笑)?
M やっぱりだんだんつらい場所っぽくなって来たから。
R あんなにはしゃいでたのに。
M 前半のはしゃぎはフリだったわけですよ…。
R しみじみしてるなぁ(笑)。
M とりあえずこんなに楽しいデートをしてたというのは伝わった?
R 確かに、色々と見るものがあって楽しかった!
M ただこのデートプランには欠点があって、こういうものを「よくわからないけど楽しい!」って言ってくれる人とじゃないとつらいんだけどね。
R 彼は「楽しい!」って言ってくれる人だったんだね。そして、2人で会える機会が少なかったからこそ、些細なことでもとても楽しかった。
M そういうこと! よし、東急ハンズはここまでにして次に行こう。
R 次はパルコ?
M パルコの跡地に立ち寄って、ポムの樹かな。
R じゃあ、ここから2人が破局した日のデートコースをたどるわけだな。